ありがとう、旧福山商店

旧福山商店 建物の思い出

北3条通りの小さな赤煉瓦

北3条通りにある2階建ての赤煉瓦の小さな建物。建てられた当時はハイカラで目を引く建物だったのでしょう。今では、レトロな外観で目を引くものの周辺の高い建物に圧倒されて、ひっそりと佇んでいた。

創成イーストで働き始めた2019年から、通勤のたびにこの建物を見て、「今日も仕事頑張って」と励まされてきました。どんなにしんどい朝でも、この建物を見れば元気になれる私の心の栄養剤的存在でした。

旧福山商店は数年前までは「café rosso」だった。「café rosso」が閉店してから、次はどんなテナントがはいって、わくわくする場所になるのだろう。そんなことを想像していた。

しかし、その姿はもうありません。取り壊され、あっという間に更地になってしまいました。

私にとっての心の栄養剤

2019年、私は札幌市の創成イーストと呼ばれるエリアで働くことになった。出勤時のひそかな楽しみは北3条通りを渡るとき、西側に遠目で見ることができる赤れんが庁舎と東側にある旧福山商店をみることだった。

毎朝、心の中で「おはよう」、「元気かい?」「今日は寒いね。」と会話をしていた。それが私の毎日のルーティンになっていました。

以前は「café rosso」として親しまれていたようですが、私が通い始めた頃にはすでに閉店しており、空き家となっていました。それでも、レトロで温かみのあるレンガ造りの外観、中央にあるアーチ玄関とそれを挟むようにある窓の形は非対称。道路の角に面しているアーチ型の角の窓は大きく店内が見えるように設計されたのでしょうか?向かって右側にある窓は縦長で、事務スペースか何かだったのでしょうか。かつての札幌の街並みにあった文化の香りを今に伝える存在のようでした。

旧福山商店の記憶と歴史

この建物は、明治40年(1907年)に建てられた煉瓦造2階建。設計・施工は新開新太郎。味噌と醤油の醸造業を営む福山米太郎が、明治24年に創業した「福山商店」として建てたものです。札幌ファクトリー(旧札幌麦酒会社工場)のすぐ近くにあり、親和性を感じるデザインでもありました。

昭和63年、札幌市創建120年を記念して作られた「さっぽろふるさと文化百選」にも選定されていた貴重な歴史的建物です。

使われない建物はどうしても朽ちていく。冬はとても寒かったでしょう。ずっとテナントが入るのを待っていたけれど、その願いは叶わなかった。私に資金と才能があれば、借りて何かできたのに――そんなことを思いながら、いつも横を通っていました。

2025年4月。取り壊しの噂が耳に入りました。5月中に白い幕で仮囲いがされた。心のどこかで、外壁修繕、補強工事であってほしい。そう願っていた。しかし、そんな思いとは裏腹に跡形もなくなっていた。

まるでマジシャンが布をはらりと取った時のような。呆気にとられて、どこかに隠されているのではないかと思い、目を何度こすってもその姿を現すことはありませんでした。

そして私自身も、この地で働くのも6月末までと決まった。

今は更地になった場所を毎日横目に、いなくなってしまったあの子(建物)のことをいまだに考えている。ぽかんと空いたこころのまま一カ月通勤するのか。

私と旧福山商店の物語は終わってしまったけど、毎朝みていた風景はずっと心に残って私の中で生き続けることでしょう

都市の波と、失われた風景

札幌は今、都市開発の波に揉まれている。 1972年の冬季オリンピックの頃に建てられた建物が「老朽化」の名のもと次々と姿を消していく。オリンピック招致は断念され、北海道新幹線の札幌延伸も遅れの見通し。空き地と建設現場が目立つ中心部。歯抜けのような街並みに、何を期待すればいいのかわからなくなる。かつての街の景色がどんどん失われ、心の拠り所も消えていく。

旧福山商店について

  • 所在地:札幌市中央区北3条東3丁目
  • 建築年:明治40年(1907年)
  • 構造:煉瓦造2階建
  • 設計・施工:新開新太郎
  • 歴史:旧福山商店は明治24年(1891年)創業。その16年後にこの建物は建築された。
  • 認定:「さっぽろふるさと文化百選」選定

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